「神は細部に宿る」

 ある朝、我が社の壁に「神は細部に宿る God is in the details」という張り紙がしてあるのに気づいた。どれほどの社員が気づいたかは知らないが、面白い言葉を貼るものである。まさに神は「細部」に宿る。この世の中、「細部ですべてが決まる」のである。これはミース・ファンデル・ローエというドイツからアメリカに移住した建築家の言葉と言われている。日本では同じことを「一事が万事」と言う。まさにその通り、この世はすべて「細部」が勝負。「一事が万事」なのだと、私も思っている。
 でも、「一事が万事」と書いた紙が壁に貼ってあったらどうか。きっと古臭く思うだろうなあ。やはり「神は細部に宿る」だから目を惹くのだろう。気が利いている。
 細部なんて下らん、もっと大きなことが大事だと言う人も、きっといるだろうが、そういう人は世の中、世事、世間は細部の積算だということが分かっていない。昨日と今日にさほど違いは無い。しかしながら、だからこそ、人間は少しずつ変化した細部を積み重ねて行くものなのです。その積み重ねが、結局は人間の考えや行動を決定するのです。
 この世の中は細かなことの連続、積み重ね。ちょっとした言葉遣い、仕種、振舞いの中に人生は凝縮されて在る。大概の人間の一生は、大事件の連続ではない。日々繰り返される細部の積み重ねである。細かな差異を少しずつ積み重ねたものが人生なのです。
 人生は細部が絡み合い降り積もった地層です。
 細かいところに命が宿っている。神は細部におわしましている。細部を馬鹿にしてはいけない。おろそかにしてはいけない。人生は、細部そのもの。神は細部に宿っておられるのである。