過労自殺 賠償命令9900万円 九電工に福岡地裁

 電気設備工事大手「九電工」(福岡市)の社員だった福岡県内の男性(当時30)の自殺は過労が原因だとして、妻(34)や両親が同社に損害賠償など約1億1900万円の支払いを求めた訴訟の判決が2日、福岡地裁であった。岩木宰(おさむ)裁判長(小田島靖人裁判官代読)は「長期間、過重な時間外労働で疲労を蓄積させた結果、うつ病を発症し、自殺した」と過労と自殺の関係を認め、約9900万円の支払いを同社に命じた。
 遺族側の代理人で、過労死弁護団全国連絡会議代表幹事の松丸正弁護士によると、過労自殺をめぐる賠償額としては高額という。
 判決によると、男性は1998年4月に九電工に入社し、空調衛生施設工事の現場で施工管理に当たっていた。2003年8月からは福岡・天神のビル新築工事の現場を担当。04年9月、自宅マンションで自殺した。九電工側は「男性はうつ病を発症しておらず、負担が重い業務でもなかった」と主張していた。
 判決は、男性が04年春から睡眠障害や食欲不振に悩み、同年7月末にはうつ病を発症していたと認定。勤務票上は時間外労働は月30時間以内となっていたが、事務所の警備記録をもとに、ビル新築工事現場の担当となってからの時間外労働は月120時間を超え、04年7月には176時間に及んでいたと指摘。「同社は勤務票が実情と一致しないことを認識しながら長時間労働を放置した」と安全配慮義務違反を認めたうえ「このような勤務が健康の悪化を招くのは容易に認識できた」と結論付けた。
 判決後、男性の妻は「夫の死を個人の問題にしたくなかった。今後、社員の労働管理を徹底してもらいたい」と訴えた。九電工は「現場の実情を十分理解してもらえず残念。控訴の方向で検討を進めたい」との談話を出した。
(2009年12月3日 朝日新聞